top logo

第29回 九州私立保育園研究大会(宮崎)レポート

 

 平成22年11月5日、宮崎市 ワールドコンベンションンセンター・サミットにて第29回 九州私立保育園研究大会が開催された。
 子ども・子育て新システムの教義が急ピッチで進められている中での開催となり、九州各地より参集した関係者1004名は、緊迫した雰囲気の中で開会。「みんなの笑顔がみたいから」~ 全ては子どもたちの未来のために~ が本大会のテーマ。
 熊本県から70名以上が参加した。

会冒頭、九州私立保育園連盟・玉城副会長が、「新システムの制度改革論議の方向性は現場の考えるものと一致していない。その状況下で、この2日間でここに私たちが石を投げ入れられるような活発な論議をお願いしたい」とあいさつ。 国家斉唱、児童憲章朗読に続いて、全国私立保育園連盟の基本綱領が読み上げられた。

来賓として参加する予定であった全国私立保育園連盟・黒川会長が前日急用にて来宮することができなくなったことを九州私立保育園連盟・橘原会長があいさつの中で説明した。以下、橘原会長のあいさつ:

「1000名を超える保育者が参集してくれたことに感謝。本大会に必ず来て来てれると思っていた黒川会長が参加することができないと昨日電話があった。大変おどろいている。」
「現在国においては、新システム検討会議が開催されており、3つのワーキングチーム(WT)を設置、新保育のシステムの検討が続けられている。11月1日幼保一体化WT、4日は基本制度WT開催された。前者は10月から毎月2回のペースで実施されている。厚労省はこの3つのWTにわたしたちの意見を反映させたいということで、全国各地で意見交換会を実施している。このような機会に、わたしたちが言うべきことを言うということがこれから是非必要と考えている。」
「現行の保育制度では市町村の保育実施義務が明示されている。また、児童福祉の最低基準が設置されており、全国各地で同じ保育を行うことができる。今の最高の保育システムが我々の意にそぐわないところで制度が変えられようとしている。ここには、3つの問題点がある、①公的責任の後退、②最低基準が最高基準となること、③応益負担が導入されること、これは保育料が上がることと同意義であるという懸念がある。このような制度になると子どもたちの明日はどうなるのか心配である。」
「保育三団体が一致団結して(この流れに対して)行動を起こしたいと思う。役員、理事でどのような行動と起こせばよいのか協議を重ねている。これまで、マンガパンフレットを作成し、意見書など署名運動を展開した。」
「国は今年の年末には新システムの大綱を示し、来年3月には法案化する予定ところで時間がない。しかし手をこまねいている訳にはいかない、なんらかの行動をおこし、明日の日本を担う子どもたちを育てる制度を構築していきたい。」

最後に大会実行委員長・平川氏が、「7月に口蹄疫の問題が発生したが、本会はそれに関わらず進めて来た。参加者数が少なくなるのではないかという懸念があった。しかしこれだけ集まっていただいてうれしい。」とあいさつ、開会式を終えた。

 


○パネルディスカッション 「山積する保育制度の行方と我々九州の対応について」

宮崎県保育連盟連合会 井之上理事長をコーディネーターに表題のパネルディスカッションが行われた。
パネラーは以下の通り:

  • 佐藤成己(九州社会福祉協議会連合会 保育協議会会長)
  • 永野繁澄(日本保育協会 九州地区連合会会長)
  • 橘原淳信(九州私立保意園連盟会長)
  • 牧野多津子(九州社会福祉協議会連合会 保言協議会保育士会 会長)

以下、そのパネルディスカッションのサマリー:

井之上:
 平成21年2月リリース、少子化対策特別部会の第一時報告から保育改革が表に出てきたところである。名称は変わったが、制度改革の協議は継続されたが、関係者が皆無、そのため事業者専門委員会を創設、協議に参加した。その頃から九州と全国の意見が食い違って行った。この段階での認識を皆さんに聞きたい:
佐藤:
 当時から九州はこの制度改革はおかしいと異議申し立てをしていた。そういう意味では九州連では現行制度堅持の姿勢をくずしていない。九州だけが変わらないという立場だが、今後は各県の会長と協議しながら進めていきたいと思う。
永野:
 第一次報告の中で「公的契約」が出てきた。ただし市町村の義務は後退させないと約束していた。厚労省は現物支給を実施する、つまり24条を守ることを約束していた。保育料の徴収、直接補助などはせず、指定制度は検討するということであった。民主党の保育の産業化の一番の要素は直接契約・指定製である。このようなものを保育団体が防いで来た。いつも何故変えるのかと問いつづけた。待機児童対策などと言って(実施すると)市町村の義務を後退させる理由に他ならない。村木厚子氏がその当時、この種の文言を書かなかったら財務省がうんと言わないと繰り返した。財務省の仕事の主な目的は公費削減であり、つまり、この改革の目的は公費削減である。実行されれば運営費の約6割削減が予想される。そうすると職員の給与削減、保育料のアップにつながっていく。
橘原:
現行の制度は最低基準、応能負担、公的責任も明示してあり、安心して保育業務に携わることができてきた。この世界に冠たる保育制度を守ると言うと「既得権維持」、「業界のエゴ」と糾弾されるが、今回の制度の視点がどこにあるのか分からない。少なくとも子どもではなく、国の財源削減のためと応益負担にするのが目的と考えられる。すなわち、保護者からの保育料のアップ、待機児童対策であるが、大都市のための待機児対策を全国一律の制度にするのが危惧される。このような制度を作って欲しくない。このため他の団体と一緒になって行動しているところである。現行の保育三団体とも本制度については「条件付賛成」というスタンス。先が見えないところに大きな危惧を持っている。
井之上:
保育士会として現場の見地からコメントをお願いしたい。
牧野:
制度改革の時、子どもの育ちが議論されず決まって行く。要望書を上げて来たが、、それが反映されていないのが事実。
井之上:
 都会の待機児童対策が保育制度改革の理由としてすり替えられているという話もあったが、待機問題は都会の人口増に対する予見・対策の誤りを自治体が取ってこなかった、行政の怠慢なのではないか。現行の良い制度を変えてまで待機児童対策にすり替える必要はないと思う。どう思うか?
佐藤:
現行制度は全く悪いところないのになぜ変えるかがわからない。保言士の努力のたまものである現行制度を堅持しながら、(必要な部分を)若干変えつつ拡充させていくのが良いと思う。
永野:
介護でも施設は増えていない。企業の参入も増えていない。イコールフィティングで指定製導入という話であるが、イコールフィティングを可能な限りやる一方、今の制度を堅持していけばいい。全てのこどものためには、一次預かりとか子育て支援事業を拡大すれば良い。 すべての子どもたちと言うなら「保育に欠ける」子どもたちを優先する必要がある。待機児とすべての子どもは全く違うケースである。
橘原:
この数年、どのくらい保育園の数が増えたのか知らないが、地方自治体が保育所を作らず、現金給付にはしった。現金給付で子ども手当が3千円アップになると、どのくらいの財源が必要となるのか、待機児童は建物が必要である。待機児童対策をベースにした制度を、なぜ全国一律で設置しなくてはならないのか理解できない。特区構想を持って、該当地域だけを必要期間のみ制度改革を実施していけばよいと思う。
牧野:
待機児童は、実際の数はもっと多数と言われる。子どもの成長、保育士のことを考えると涙が出てくるような気がしてくる。子どもたちの育ちの保障をサポートしてきたが、今は保護者のサポートが必要となってきている。
現場では、赤ちゃんの声かけができないような疲弊した状況が今でもある。加えて家庭能力も低下している。
保育現場が人間的ではない。子どもに寄り添いたいと思うがなかなかうまくいかないと思う。公立ができていないことを私立がやってきたが、報いはあまりないなと思うことがある。
保育園の中だけでは、処理できない仕事がある。保護者との対応や職場での人間関係のつらさ。研修権がないこと。
保言者は、今やかなりの「人格者」でなくてはできないと思う。保護者との対応も難しくなってきている。母親の不安やストレスも顕著となっている。児童憲章が遠いところに行こうとしているように思える。
井之上:
保育者の労働環境は非常に苛酷ではないか? 予算的にも非常に厳しい状況である。
佐藤:
職員処遇には納得いかない。公立は一般行政職であって、同じ仲間でありながら給与が全く違う。同じ仕事なのに給与が違う。制度改革ではここを改革していくのがまず始めではないかと思う。
永野:
東京では乳児1人に57万円かかるとされている。公立の職員の給与は900万円、認可保育園でも乳児でも30万円かかると言われている。東京では運営費を倍もらっている(一人に対して)。都市は自治労が強く、給与が上がったのである。そこでは保護者負担は2万円、税金が48万円というのは非効率という批判は理解できる。地方は違う。ぎりぎりでやっている。そのため東京では規制改革についても反対の意見がない。東京は、やはり裕福である。特区構想が出てくるのも当全だと思う。
井之上:
 ワーキングチーム(WT)については、議事録を見ると我々と考えを異にする発言もある。しかし、来年の3月には法案として提出するということ。会議は形式だけだという指摘もある。厚労省担当者の全国行脚も形式的にではなかったのかという疑問がある。
佐藤:
 23年3月に法案化する前に、意見を吸い上げるということであるが、スケジュール的にはWTはパフォーマンスであると思う。九州以外のエリアが賛成となれば、成し崩しとなる。だから、今の時期に立ちあがらないと大きな失敗となると思う。もうわずかの時間しかないので、反対運動を展開していかなくてはならないと思う。介護保険の轍をふまないように今が正念場だなと思う。
永野:
九州三団体は、もう一回署名をやる。その目的は、児童福祉法24条死守。これが最も必要である。改革の行く先は、産業化へ向かっている。だから保育関係者全員がここを知る必要があるし、この法案をストップしなくてはならない。有効団体との協議を持った日保では、「全国で反対の署名運動」を展開し反対運動を盛り上げていくことになった。これに火をつけたのは九州であった。このためこれからも運動展開を続けていく必要がある。このため11月に東京で集会を開催する。
橘原:
 第1回のWTで反対の意を表明しているのは幼稚園連合会だけであった。全私保の意見は、幼保一体化については、今回我々の意図が含まれているような感じがする。すでに新システムは決定済の事項も存在するので、どうなのかという気持もある。 
井之上:
全国知事会で特区案があるが、九州の保育団体の動きについてはどうか?
佐藤:
特区については賛成。学校教育の中に小学校30人制度が特区で認められていたことがある。
九州三団体の研修会については、ひとつにまとめてこのような話をするのが良いのではないか。連絡協議会などをまとめて協議するのは多いに良いと思う。
井之上:
九州は昔からひとつと言われていいて、これからもより堅固なまとまりを期待したい。

(了)


昼食をはさみ、午後より7つの分科会が行われた。

○第一分科会:「保育制度のかかえる課題」 
三重県社会福祉協議会会長 伊賀市社会事業協会 会長 森下達也氏

保育制度改革の問題の核心について元全国私立保育園連盟の制度問題検討会の中心メンバーであった森下氏が講義。

同氏は、講義全体を通して直接契約には断固として反対しなくてはならないと主張。新システムが基軸とする今回の制度化改革は「直接契約」の導入を意味するものであり、そうなると福祉がビジネスに置き換わってしまい、大変なことになってしまう。そのために断固「直接契約」には反対していかなくてはならない。

「今回の問題はお金の問題ではない。問題は何よりも「直接契約」。直接契約に変わったら基本的な構造が変わる。
インセンティブの方向が変わるので、もし直接契約となったら今の保育は終わったと思ってほしい。
事業経営の競争は自由経済の基本である。売ろうというターゲット、たくさん高く売れること。できるだけ多く高く売れるものを開発。弱者を切り捨てた、少数者を対象にした方向性になる。しかし、わたしたしの仕事は基本的には人間だから違う、それを今の議論は混同している」と指摘。

「直接契約になると公の責任が無くなると福祉がビジネスの枠組みで進められ、行政のチェック機能が無くなり、福祉のトライアングルがなくなってしまう。行政の責任を後退させることは保育がマーケットの世界に入ることになる」。平成5年より発足した「保育問題検討委員会」から今日まで、国は常に保育を措置から「契約」に置き換えたいとの姿勢を変えていないと指摘。コムスン破綻の前例を取り上げながら「保育が介護保険モデルを取り入れていくということになれば、必ず保育のビジネス化が進み、コムスンと同じような惨状が保育にも出来することが容易に予想される」と警告した。

また、新システムについて、「全ての子どもたちという大前提があるが、すべてという言葉づらでごまかすのはやめてほしい。 介護保険制度は、全ての老人へのサービスを達成していない。同じように全ての子どもたちのためというのは誤魔化しである。福祉はまず弱い立場から実現していくものであると考える。現行の制度を良くしていって、それが広がっていって全国に広がるというのがベスト。」

「介護保険を導入した90年代後半、国は「老後は選択の自由」を標榜した。介護保険が導入される以前は、行政担当者は、介護施設に入れた人について、入所後必ず確認しに来ていたものだが、介護保険が導入されて、決められた仕事以外はやらなくていい枠組になってしまい、今やそんなことをする行政担当者は皆無。介護保険以前が福祉の姿だったのだと思う。介護保険導入後は、福祉がビジネスになってしまった。福祉というのは、ここからここまでというのものではない。」と述べ、新システム・直接契約の導入が福祉としての保育を破壊するとあらためて警告した。

講義後の質疑の応答の中で

「若い世代のみなさんには、もっと保育の基本を勉強して議論してほしい。最低でも憲法91条、児童福祉法61条を精読して、我々のやっている社会福祉の基礎を理解して置いてほしい。最低でもこのぐらいは押さえてからの議論でないと議論にならない」と主張した。
「ともかく直接契約になったら、保育ではなくなる。なにしろ、みなさんにはすぐに行動してほしい。時間はないのだから」と述べ講義を終えた。

多忙なスケジュールをついて、東国原知事が来場、あいさつを述べた。会場は大興奮。10分弱の登場だったが、東国原知事に絶大な人気をあらためて痛感した。

(了)



記念講演

大会2日目の11月5日、「やってみよう、おてて絵本」(~おててからこころが見えてくる~)と題して絵本作家 佐藤伸(サトシン)氏が記念講演を行った。

サトシン氏は、第一子の誕生を機会に、育児専念するため広告制作プロダクションを辞職。以降絵本作家、ミュージシャンとして活躍、特に自身の子育ての経験から発案した「おてて絵本」を提唱、多くの保育園・保育者・保護者から指示され高い評価を得ている。

最近、上梓した絵本「うんこ」が非常に公表で、すでに6万部を越え、重刷になったとのことである。これから12冊さらに上梓するとのことで実に多忙とのこと。文筆活動だけではなく、最近は絵本をベースにした音楽活動も進めているとのこと。

  • おてて絵本:

    自分の子どもが2歳のとき、あそびの中で物語が紡げることに気が付いた。面白いので、合いの手を打っているとどんどん「すっとこどっこいな物語」が次々と生まれてきた。他の子どもでもできるかどうか、やってみたらできたので、どんどん発展させていって「おてて絵本」というかたちができた。

実際の絵本は使わず自分の手(おてて)を本に見立てて「何が見える」と問いかけ、子どもに見えた何かを素材として、聞き手の大人が合いの手をいれてあげることで、自由発想でひとつの物語をつくられるようかかわっていくこと。これが「おてて絵本」の基本。最新の発達心理学では、2歳の子どもは物語をつくることができるということが証明されているとのこと。

上のように「おてて絵本」で子どもとかかわっていくこと、子どもが話をすることを大人が真摯に聞くことで、子どもは大人を信頼することができるようになる。自由発想的な「すっとこどっこいなお話」がメインになるが、日常会話では見えなかった子どもの内面が見えるときがある。そこには新しい発見がある=と説明。

 

遊び方:

まず、モデル(お手本の)設定を聞かせる、主人公を設置する、子どもの話を聞く、合いの手を入れる、楽しかったことを伝える。そしてその話を録音などで記録して置く。すると、おどろくほど興味深い話のコレクションができあがる。

このようにように語った後、子どもたちが実際に作った話をサトシン氏が読み出すと、あまりの奇想天外なお話に場内は大爆笑。次に、「おてて絵本」の練習として会場の参加者の何人かをステージに上げ、サトシン氏が合いの手をうちながら、お話つくりに挑戦した。それぞれに特徴のある話の内容に、さらに場内は笑いに包まれた。
おてて絵本は、ふたりでもできるということで、今度は参加者2名がペアになり、サトシン氏が合いの手で、さらに創作の練習。これもまた、サトシン氏の絶妙の突っ込みに乗せられて、話の内容のあまりにおかしさに場内は爆笑の渦となった。

最後に最近「みんなのうた」で取り上げられた「きみのきもち」を作家が歌い、この作品で伝えたかったことは、「人は人とかかわり合いが人間には絶対必要なんだということだ」と語り講演を閉じた。

サトシン氏が、おてて絵本、絵本、音楽から伝えたいのは、ともかく子どもたちと言葉という人間だけが持つ媒体をよりよく使うことを通じて、より深い関わり合いを持てるということだと思った。それが、大人とののさらに深い信頼感を形成し、さらに子どもは深い満足感を得ることができるのだと語る。

サトシン氏の爆笑に次ぐ爆笑のプレゼンテーションは、よく聞けば分かる通り深いに知性に裏付けられている。サトシン氏の作品は、とにもかくにも「すっとこどっこい」でおもしろい! そうだ人と人の関わり合いは、すっとこどっこいで面白くなくては、長続きしないし、深化もしない。自分も、これから「すっとこどっこい」に生きていきましょうと爆笑の中で意を強くした講義だった。いやあ、勇気づけられました。サトシンさんありがと!

(了)



記念講演の後は閉会式。主催者おれいの言葉に続き、次期開催地の北九州関係者がステージに登り、次回も参加のアピール。次に、「子どもたちと保育を守る決議」が読み上げられ、全員がこれを承認した。
最後に熊本県保育協会・塚本理事長が「九州が一丸となって新システム反対に決起するのは今をおいて無い。みなさん戦いましょう!」と参加者を鼓舞して、本大会の全てを終えた。(了)

記録責任者:
熊本県保育協会 広報調査委員会 福田俊彦